心理占星術と未完成な日々┃nicosmic life

自分自身が納得できる人生を歩むために、ホロスコープの構造を利用する

南半球と東電OL

コンサルテーションでは、様々な形でクライアントの抵抗に合う。

特に、南半球が強調している人の抵抗は難しい。

彼らは優等生であったり、自慢の娘/息子であったりすることが多い。

そして常に向上を目指し、目的達成のための努力を怠らず、ポジティブなエネルギーに満ちている。

だから一見、コンサルテーションを最後までスムーズに進められるような錯覚に陥る。

つまり、南半球の強調はとてもトリッキーなのだ。

けれど彼らは、どこか不安定に見える。

一様に、見えないプレッシャーや焦燥感に駆られ、落ち着きがない。

それでも、彼らは何らかのチャレンジ、または社会的ステイタスを求め続ける。

「目標のない人生なんて無意味でしょう?」

そう言われたこともある。

ならば、それは何のためのチャレンジ、何のための社会的ステイタスなのだろうか? 

MC=社会の基準に沿った生き方に矛盾を感じることはないのだろうか?

それは、本当に自分を満足させる方向性なのか?

「幸せになりたい」

「今より満たされた人生を送りたい」

誰もが皆、同じ気持ちでコンサルテーションを訪れる。

けれど、南半球の人々の目的は似ている。

どうしたら、今よりも社会的な価値を上げられるかだ。

一般的には、9ハウスや10ハウスが強調されているホロスコープは高い教育、開かれた世界への飛躍、職業の成功や社会的に認知されている肩書への野心などを示していると考えられている。

そして多くの占星術師は、これを成功への最短コースを歩むチャート、とても華やかなホロスコープと考える。

ティルは著書「心理占星術 コンサルテーションの世界」の中で、南半球の強調の解釈についてこう説明する。

MCを中心とした南側への偏りがある場合、人生の荒波に揉まれ、犠牲になりやすいという、とても現実的な状況ああるでしょう。「なぜなのか」「何が傷つきやすさになっているのか」を探す必要があります。

私は、これに少し補足をしたい。

南半球の強調のコンサルテーションの焦点になるのは、「誰があなたのMCのイメージを作ったのか」「その努力は何のためなのか」だ。

幼少期の頃、子供らしい時間を過ごす暇もなく、MC=社会に放り出された可能性があると考えられる。

度重なる転勤や親の過度の期待、負担になるほど習い事をさせられるなど、自分自身の足元をじっくり固める時間が持てなかったのかもしれない。

親が人生のレールを引き、彼らはその道に従った。

その結果、社会的な結果や評価にしがみついたり、周囲の期待に応えることだけが目的になったりと、ささやかな幸せを実感する余裕を持てない傾向を示すことがある。

そして、評価や結果が防衛機能になる。

カウンセリングの目標としては、なんとしてもICを強化することだ。

失われた子供時代を取り戻すべく、無目的な時間に身をゆだね、くだらない遊びに興じること。

結果や社会的な評価から遠く離れ、個人としての人生を再評価させることだ。

その場合、結婚相手として有望な人物との出会いや仕事にプラスになる出来事など期待してはいけない。

ただ、「私」個人を実感することが重要だ。

そういった活動を通して、心の安定を築いていくのだ。

南半球の強調についてぼんやりと考えをめぐらせていた時、東電OL殺害事件について書かれている記事を見つけた。

アダルトグッズショップの経営者であり、『フェミの嫌われ方』の著者北原みのりの記事だ。

この事件は有罪確定から約8年を経て、ここ最近急展開を見せているのはご存じだろう。

彼女が「東電は素晴らしい一流会社だ」と心から信じ、つねに組織の論理を優先し、女性である自分を決して生かすことのない会社なのに、それでも毎日誇りを持って働き続けていたのはなぜだったんだろうと考えます。

売春していたことではなく東電を辞められなかったことが、彼女の命を縮めたように思うのです。

自分を損ない続ける会社であっても、「東電」という世間の評価の方を重視する感性は、彼女だけのものじゃありません。

自分の頭で考えずに自分の自由を奪うような生き方をする限り、この国は引き裂かれた東電OLなのだと思う。

この指摘は、南半球の強調の難しさを示してはいないだろうか?

被害者は高学歴の父と名家出身の母との間に生まれた。

彼女のホロスコープを見てみると、明らかな土星問題がうかがえる。

もしかしたら、彼女の生涯に渡るひたむきな努力は父親に認め、愛してもらうためのものだったのではないだろうか。

彼女が20歳の時、父親がガンで死亡し、最初の拒食症になった。

そして大学卒業後、父親と同じ東電に就職する。

彼女は、ひたすら見えない父親の背中を追い続けた。

「父親のお気に入りの娘」で居続けるためだ。

東電の同期女性が社内選抜試験に受かり、ハーバード大学に留学したことで彼女の転落が始まった。

そしてサターンリターンを終えた32歳の時、彼女はクラブのホステスのバイトを始めた。

結果や評価を得るための果てしのないプレッシャー。

彼女の正確なホロスコープを見たわけではないが、この苦しみこそ、私の考える南半球の難しさだ。

南半球強調の人々は、サターンリターン、もしくは中年の危機以降、長期の休み、長い潜伏期間に入ることが多い。

自分を見つめ直す時間を持つ、または持たされるような出来事に遭遇するのだ。

これは、おそらくIC活動期ということなのだろう。

その後、嘘のような復活劇で大きな飛躍を見せてくれる人もいる。

ここからが、彼ら自身の本当の人生の始まりなのかもしれない。

だからもし、取り巻く環境により、息もできないくらいプレッシャーを感じることがあったら、だまされたと思って、今いるポジションから少しだけ離れてみるといい。

もしかしたら、自分でも気付かなかった可能性の扉の入口を見つけることができるかもしれない。