ある程度、占星術のテクニックが身に付いたら、どうしてももうひとつ育ててもらいたい技術がある。
それは、「ストーリーを組み立てる」ことができる力である。
コンサルテーションの現場では、この作業が一番難しく、そして何よりも大切だと私は考えている。
まず準備の段階で、「恐らく、こんな人物に違いない」というイメージを作り上げていく。
こんな子供時代でこんな学生生活を送り、こんな仕事を選び、こんな悩みのパターンを作りやすいのではないだろうか。
そのように最初に想定して、ひとつのストーリーを組み立てていく。
仮のものであって構わない。
まず、イメージを作っておくことが大切なのだ。
準備をしていると、チャート上にいつくかの違和感を発見することになる。
例えば…
双子座の月を持っている。
それなのに、その支配性の水星は魚座にあり逆行している。
月の欲求を満たすのに、どのようなスタイルを築いているのだろうか。
もしかしたら繊細すぎるこの水星は、コミュニケーションにコンプレックスを感じているかもしれない。
意見を目立たないところにしまい込み、人前では言葉を飲み込むことが多いのではないだろうか。
または…
水瓶座の月が8ハウスにいる。
個性を発揮する際に、他者の価値観が邪魔をすることはなかっただろうか。
人と違うということを個性としてではなく、何か気恥かしいもの、または恐れを感じる体験へとつながっているのではないだろうか。
獅子座の太陽が11ハウス?
自己を伸び伸びと表現することよりも、承認されるために自分を取り繕ってしまうことはないだろうか。
そこに緊張はないだろうか。
こうして感じた違和感を胸に、実際のコンサルテーションに向かう。
クライアントとの会話と、そして自分の組み立てたストーリーとを照らし合わせていく。
もし、クライアントの語るストーリーと自分のそれに矛盾点があった場合は、素早く修正を加えていく。
また、準備の段階で感じていた違和感を、クライアント自身がどのように体験しているのかもしっかりと把握しておかなければならない。
その際には、適切な質問を立てる力も必要となるだろう。
そのようにして、10天体、12サイン、12ハウスをバラバラの部品から、ひとつの人生のスト―リーへとまとめあげ、ようやく「なんとなく、こんな感じかな」という人物像が出来上がっていく。
カウンセリング法の本にも、「カウンセリングでのストーリーは、生きた人間に根拠を持っていなくてはならない。個々のストーリーがその人自身とは違うとすれば、実際のストーリーは、どのように関連するのだろうか。いくらもっともらしいストーリをこちらが作っても、本人の役に立たないと無意味である。そのためには、クライアントが語った言葉を使って、それをキーワードにしてストーリーを作るのがよい。そうすれば生々しい体験を共有できるからである」とある。
占星術を教えていると、ストーリーを仕立てるのがうまいなと感じる生徒さんは、やはり占星術をマスターするのも早いことに気がつく。
天体同士のアスペクトを物語化し、「きっとこんなふうに体験しているのではないか?」というように、いきいきと語って聞かせてくれる。
私はかつて、テレビのプロット書きの仕事を通して物語化の力を磨いてもらった。
24歳の頃、ドッペルゲンガーの現象を作為的に操作され、殺人犯に仕立てられるとかいう2時間のサスペンスドラマのプロット書きをしていた。
その時の監督が異様に人物設定にうるさく、「みゆき(主人公の名前)は、こんなセリフを言わない。こういった女の口から、こんな強気な言葉は出てこない」「みゆきがこの場面で、こんな行動に出るのはおかしい」と、私が描いたみゆき像にダメ出しばかりしてきた。
「もっと人間の心理に入り込め。そうすれば、その人物にふさわしい行動パターンがわかる」という監督の言葉は、今でもよく思い出す。
「もし、人がいつもと違う言動に走ったら、そこには嘘や事件性が潜んでいるだろう。そこを見抜けば、本当に人を理解できたということさ」
毎晩毎晩、みゆきと格闘し、あやうく私のほうがドッペルゲンガーを見るところだった。
しかし、このしごきのおかげで、ひとりの人間を矛盾なく描くことの難しさを体験することができた。
クライアントの伝えてくれるストーリーが、私たちの質問によって、より濃密なストーリーになっていく。
双子座・月、魚座の逆行水星の違和感は、仕事で忙しい両親のもとから離され、祖父母に育てられ、いつも遠慮がちに振る舞うくせができ、そのせいで引っ込み思案になってしまったのだと理解できたとき、クライアントの生活史はひとつの確信を持って動き始めていくだろう。
けれど、魚座の逆行水星は、その体験のおかげで年を取った人に対して、言葉を抜きに分かり合える能力を持つことになったと知った時、その人の意外性を発見し、私たちは、彼女の未来の可能性に気づくことになるかもしれない。
なるほど。
では、コンプレックスを解消させていくストーリーをどう組み立てていこうか。
クライアントが古い物語を手放し、新しい方向に無理なく進んでいける方法をどのように一緒に考えることができるのか。
ストーリーは終わることはない。